G検定&E資格の致命的な問題と将来価値 〜受験を勧められない5つの理由〜
先週2019#3のG検定の合否発表がありました。
総受験者数6580名中、合格者は4652名ということで、合格率は70.7%でした。
私も無事この試験で合格したのですが、試験を受ける前と受けた後ではG検定の印象が大きく変わりました。
正直、現在の制度には問題がありすぎて受験を人に勧められない、というのが正直なところです。
以下に問題点を列挙していくので、これからG検定を受けようと考えている方は参考にしていただければ嬉しいです。
目次
- 1. 現状の制度のままではG検定は絶対に格上げされない
- 2. G検定を受けることで得られるものが小さすぎる
- 3. E資格の受験ハードルが高すぎる
- 4. 合格後のケアが無さすぎる
- 5. ネーミングセンス
1. 現状の制度のままではG検定は絶対に格上げされない
これは日本ディープラーニング協会としても元々そのつもりかなとも思うので、期待しているのは一部の受験者(私含む)だけかも知れません。
「検定」という名前からも、この資格は英検や漢検のように
「AIに興味のあるモチベーションの高い人ならみんな受けてるよね!」
というポジションを狙ったものだと思われます。
代理受験や協力受験(複数人で担当分けして答えを共有する)等の不正行為が容易、わからないことがあれば試験中でもネットで調べることができるというシステム上の欠陥(?)から、この制度のまま国家資格に格上げされたり何らかの職業の必須資格になったりというのは考えにくいです。
この点は「検定」ではなく「資格」試験であるE資格に期待したいところですが、E資格にも問題が山積みです(後述)
2. G検定を受けることで得られるものが小さすぎる
致命的な点は「検定試験」かつ「1区分しかない」のに試験結果として知ることができるのは合否のみで点数が開示されないということです。
結果発表でわかるのは、自分の合否、受験者数、合格者数、合格率だけです。
自分が何点くらいとれたのか、全体でどのくらいのレベルにいるのか、苦手分野は何だったのか、不合格だったらあと何点足りなかったのか、等々…何一つわかりません。何割取れていたら合格なのかもわかりません。
検定なのに自分の実力を見積もることが出来ないのです。
結果、メール1通の合格発表の虚しさが半端ないです。
しかも過去問の開示がなく、もちろん解答もわからないままです。
試験中にわからなくて慌てて調べた知識は何だったのかも後から思い出せませんし、自信を持って解いた問題が本当に正解だったのかもわかりません。
このせいで、試験の手応えに関して「俺はほぼ満点だった」等の根拠のない発言がSNS等で続出するのではないでしょうか。
試験後の悔しさや安堵によって間違えた問題や迷った問題に関する知識が定着する効果も望めません。
一方で、試験対策としては不評な公式テキストや推薦図書である日本ディープラーニング協会理事長の松尾豊先生の著書などは、AIやディープラーニングの大枠を理解するという目的ならば良書であり、読んだ価値は十分ありました。
しかし試験自体の価値が低すぎて1万2000円プラス税の受験料を払ったことを後悔しそうになります。
公式テキスト(白本)や問題集(黒本)、推薦図書だけ読んで試験は受けないのが一番賢い選択な気がしてしまいます。
3. E資格の受験ハードルが高すぎる
G検定とE資格の間の溝が深すぎます。
具体的に言えばE資格を受けるために必須の認定講座が高すぎ(社会人の場合大体20万円くらい)で、会社からの補助があるか資格取得の明確な利益がないと受けられません。
おまけに受験料も4万円近くと高額です。
しかも認定講座を修了してから2年以内に受からないと受験資格を失ってまた講座の受け直しからになります。
その一方で、G検定は1週間くらいの独学での勉強でAIやディープラーニングの素人でも受かってしまうくらい簡単です。
最近は資格教室でG検定のための講座もあるようですが、本当に勉強が苦手で本一冊読破するのも困難という人でなければ独学で余裕です。
このようにG検定とE資格の差がありすぎて、殆どの人はE資格を受けられないと思います。
つまり悲しいことにジェネラリスト(G)はいつまでもエンジニア(E)になれません。
日本ディープラーニング協会が「人材育成とディープラーニングの普及」を掲げているのに、この制度はあんまりではないでしょうか。
「E資格を持つ人はディープラーニングの中身をちゃんと理解してほしいという気持ちからの認定講座必須という形にしている」
というような意図が『良くある質問』の回答欄から読み取れますが、それならCourseraのような形にすべきではないかと思います。
CourseraにはAndrew Ng先生の機械学習の講座等、素晴らしい先例があります。
何と言っても理事長の松尾豊先生は東大教授です。
研究室のホームページでは東大での講義資料等を閲覧、ダウンロードできるように配慮されており、お会いしたことはありませんが日本のAIの未来のためにご尽力されている素晴らしい先生なのではないかと思います。
協会として、Courseraのような形をとることは(講座修了証という形で協会の収入にもなりますし)良いことだと思うのですが…
何故このE資格に限って民間のIT教室で高い費用を払う必要があるのでしょう?
もしくはIPAのように試験だけから協会側の意思(“体系的に理論を理解したうえで実装できる人材を輩出したい”)を反映できるように試験内容を工夫していくべきです。
今まではスタートしたばかりで難しかったかも知れませんが、今年はG検定だけで15000人くらい受験者がおり、協会の収入は受験料だけで2億円近くあります。これを有効活用してもらえればと期待しています。
4. 合格後のケアが無さすぎる
G検定、E資格の合格証には「2019#3」のような記載があり、自身の履歴書等に書くときも必要です。
これは『AI技術は黎明期にあり日進月歩で、数年後には今の知識が通用しなくなっている可能性がある』という理由からだそうです。
私は「西暦表記が、取得した人のマイナスのイメージにも繋がりかねない」という一面を協会側が理解しているのかという点を危惧しています。
例えば、2023年に「2018#1」というG検定合格歴を名刺の裏側に記載しているITの営業がいたら、顧客は
「かなり前からAIに興味をもって動きはじめたアンテナの高い人なんだろうな」
と感じるでしょうか?
それとも
「この人5年前の合格を今更…更新してないし最新のことは知らなそうなのに、プライドだけ高そうで嫌だな」
と受け取られてしまうでしょうか?
どっちに受け取られるか私は不安です。
結果として数年も経たないうちに名刺や履歴書に記載できなくなります。
「じゃあ記載西暦の更新のために定期的に受験しようか」とはなりません。
試験費用が高すぎますし、実力チェックにも試験が寄与しないですから。
つまり更新試験という区分が必須の資格でしょう、これは。
西暦表記を無くし、「合格から3年経過したら履歴書や名刺には未更新と添えること」みたいなルールにしたほうが良いです。
これは大問題ですので、数年内に改善されるべきです。
もし試験ができて5年の2022年12月までに更新試験に関する制度が出来なければ、この試験は春の夜の夢の如しかな(将来はない)と思います。
更新試験は3〜4分の1の問題数と試験費用、半分の試験時間にして7割受かれば更新というような制度でどうでしょう。
年3回の試験と同じタイミングで、問題の中から最新事例に関わるものを主として抜粋するだけで良いと思います。
それなら問題制作やシステム構築の費用も抑えられますし、受験者も試験時間は通常試験より余裕がありますから、ネットでちゃんと最新事例の解答を調べながら受験する(=知識の更新に繋がる)はずです。
年3000〜4000円くらいなら毎年更新しようと思えるのではないでしょうか。
更新履歴の一覧なんかをカッコ良く用意すれば、更新頻度が高まりそうですね。
協会の定期収入(=安定運営)にも繋がるはずです。
5. ネーミングセンス
最後に、私のセンスの問題かも知れませんが、G検定、E資格という名前を何とかして欲しいです。
…ダサくないですか?(すみません)
何より問題なのは、略称から何の資格なのか全くわからないことです。
今5秒くらいで考えた名前ですが、G検定はJDLA認定AIジェネラリスト2019、E資格はJDLA認定AIエンジニア2020とかのほうがマシじゃないでしょうか。(すみません)
多分上述のように漢検とか英検のようなものを目指していて、同じセンスでいけると思ったのかなと邪推しますが、英検や漢検も今の時代にその名前で試験を作ったら流行らないと思います。(すみません)
確固たる知名度を得ているから英検や漢検は成り立つのです。
今の時代なら、5秒くらいで考えた「英語スペリシャリスト3級」(略称は英スペ)、「漢字名人1級」とかでどうでしょう。
いや…物凄くダサいですね。(すみません)
せめて「AI検定」(通称アイ検)とかにならなかったんでしょうか。
それなら試験の知名度が低い今の時点でも、何とか世間話として触れられるレベルに達するのですが…
もし何らか理由で試験名が変わるときは是非ご考慮いただきたいです。
色々愚痴を書いてしまいましたが、あくまでG検定受かったばかりにペーペーの意見です。もし考えが変わればそのうち記事にしたいと思います。
[2020年8月15日追記]
今のところ気持ちは変わらずです。周囲に受験を勧められるレベルの試験ではありません。
読んでいただきありがとうございました!