太陽光パネルは本当に採算が合うのか?~将来的な電力事情を考える~
地元の工務店の社長さんから太陽光パネルについて色々教えてもらったので、今一度その必要性について検討したいと思います。
目次
太陽光発電で黒字にできるか?
まず、太陽光パネルによる売電収入について考えてみましょう。
多くの方がご存知のように、電力会社の買い取り価格は年々安くなっており、最早太陽光パネルを搭載するメリットはないとすら言われています。
条件①売電単価
実際、2012年7月には1kWhあたり40円でしたが、2016年では31円と、23%程低下しています。
数字は経済産業省の資源エネルギー庁ホームページを参考にしました。
また太陽光パネルの搭載量によって、売電単価と買取期間が変わります。
搭載量が10kW未満の場合は余剰売電といって、発電した電気をまず家庭内で使い、余った分を電力会社に売るという制度です。一方搭載量が10kW以上の場合は全量売電となり、発電した電気は全て電力会社に売り、使う電気は改めて購入するという制度です。売電単価が24円になる代わりに売電価格保障が20年になります。
条件②設置費用
それに対して太陽光パネル搭載にかかる費用は、ちょっと古いデータで2014年12月までしかありませんが、2012年7月に新築設置1kWあたり44.1万円だったものが2016年12月には36.4万円と、17%しか削減されていませんから、費用対効果が低下しているというのは間違いないでしょう。
同庁の資料『最近の再生可能エネルギー市場の動向について』
しかも数年前までは太陽光パネルを設置する際に補助金も出ていたので、この数字以上に差があります。
条件③年間発電量
パッと調べたところによると、1kWの太陽光パネルで年間発電量は1000~1200kWhくらいのようです。これは太陽光発電協会の資料を参考にしました。
条件④稼働コスト
稼動コストとは、太陽光パネルの維持費を指しています。ソーラーパートナーズという会社のホームページを参考にしました。
以上の条件で計算して表にまとめました。
試算結果
え?と思うかも知れませんが、日照時間の短い地域では20年間収入が補償されている全量売電でないと基本的に赤字になるという計算です。
実際には、2012年時点では太陽光パネル設置に1kWあたり3万~3.5万円の補助金が出ていたので、年間発電量が1100kWでもプラスに落ち着きます。
実際は搭載量が10kW未満では余剰売電ですので、搭載量が少ないともっと売電収入が減ってしまいます。
余剰売電での実際の収支
太陽光パネルの搭載量が10kW未満のため余剰売電になる場合について、例を挙げて考えてみましょう。
一般家庭の年間消費電力量は、経産省の資源エネルギー庁によると2009年度で4618kWhです。現在では自動掃除ロボットやタブレットPCの普及等、家電が多くなっていることを加味して5000kWh/年と考えておきましょう。
想定①6kWの太陽光パネルを搭載している場合
まずは6kWの太陽光パネルを搭載している余剰売電の場合における、20年間の収支を考えて見ます。
手順1:家庭の年間消費電力量のうち、自家発電により賄える消費電力量はどのくらいなのかを試算します。
資源エネルギー庁のホームページに、一般家庭の一日の消費電力というページがありました。一日の日照時間を平均として朝6時から夕方6時の12時間だと仮定すると、この時間帯(太陽光発電している時間帯)の消費電力量は一日の2/3程度です。
更に、静岡県の場合は年間降水日数が100日程度、晴天日数が200日程度なので、1年間の2/3の日数は太陽光発電が出来ているとします。
以上の仮定から、
年間消費電力量5000kWh × 太陽光発電している時間帯の消費電力2/3 × 太陽光発電している日数2/3
=自家発電により賄える消費電力量2222kWh
となり、残りの(5000-2222)kWhは電力会社から購入していることになります。
手順2:購入している電気代を計算します。
電力会社から購入する電気は、1kWhあたり27円程度とし、売電単価は表の通りとします。
年間の使用電気代は、購入量(5000 - 2222)kWh × 購入単価27円/kWh=電気使用料75000円です。
手順3:売電収入を計算し、トータルの収支を出します。
6kWの太陽光パネルを搭載していた場合、上述の太陽光発電協会の資料から、静岡県であれば6600kWhの発電が見込めますので、売電収入は
余剰電力(発電量6600 - 自家消費電力量2222)kWh × 31円/kWh=売電収入135700円です。
この売電収入から年間維持費が1kWあたり3600円と電気使用料を差し引くと、
売電収入135700円 - 年間維持費(3600×6)円 - 電気使用料75000円=年間収支39100円
となり、10年でおよそ39万円のプラスになります。
これに対して、上述の表から設置費用は6kWで約220万円ですから、10年間の電気代収支は-181万円となりました。
手順4:太陽光発電を行わなかった場合と比較します。
年間の電気代は5000kWh × 27円/kWh × 10年間 = 135万円ですので、
10年目の時点では、太陽光発電の導入によって46万円損しているという結果になりました。
手順5:売電収入がなくなってからの損得を計算します。
搭載して11年目からは、電力会社が余剰電力を買ってくれなくなったと仮定します。
20年目までの10年間は自家発電で賄える2222kWh分だけ、電力会社から購入する電気代が減るというメリットが得られます。
年間節約分2222kWh × 購入単価27円/kWh - 年間維持費(3600×6)円 = 年間節約料38400円
これが10年なので、38.4万円得することになります。
10年目の時点ではまだ46万円損していましたが、さらに10年経つと38.4万円得することになるので、20年ちゃんと使ってやっと太陽光パネルを導入した意味があったというか、大体プラスマイナスゼロです。
想定②10kWの太陽光パネルを搭載している場合
搭載量10kW以上なので、全量売電をすることができます。
手順1:売電収入を計算し、トータルの収支を出します。
先程に比べると計算は簡単で、搭載量1kWあたりの年間発電量は1100kWhでしたから、10kWでは11000kWhになります。
売電単価24円なので、
年間発電量11000kWh × 売電単価24円/kWh - 年間維持費(3600 × 10)円 = 売電収入228000円
となります。
電気代は上述の計算から1年あたり135000円かかるので、年間収支は93000円のプラスです。
これを20年間で考えると、186万円の収入になります。
当初の設置費用は364万円なので、20年間の電気代収支は-178万円となりました。
手順2:太陽光発電を行わなかった場合と比較します。
これに対して太陽光発電を導入しなかった場合は、
年間電力料135000円 × 20年 = 270万円
の電気代がかかっているはずですので、導入によって92万円得をしているという結果になりました。
以上のように、10kW以上搭載して全量売電にしないと、太陽光発電で得するとは言い難いという結論になりました。
この計算にはいくつかの仮定に問題がありますので、ご注意ください。
・余剰売電の11年目以降は、一切売電できないとしている
⇒これは有り得るかもしれないと個人的には思っています。
・1kWhあたりの電気代が、20年間変化しないとしている
⇒原発が稼動できない、廃炉費用がかかる等の不安要素があり、実際には上昇していくと思っています(後述)。資源エネルギー庁の電気料金の水準という資料を見つけました。12ページをご覧ください。
太陽光発電を導入するべきか
10kW未満の場合、「太陽光パネルが自然災害等で想定外に故障しない」という前提条件があってやっと「20年間でプラスマイナスゼロ」という状況ですので、搭載しないという選択肢を選ぶ方も多いと思います。
5〜6kWの太陽光パネルを載せるべき
しかし私は現時点において、太陽光パネルは載せるべきだと考えています。搭載量は5~6kWが良いでしょう。
5~6kWというのは、年間発電量が5500~6600kWhになりますので、蓄電池を導入すれば日照時間以外でも自家発電した電力で生活できるので、一般家庭の年間消費電力量を丸々賄えることになります。
「太陽光パネルを搭載=売電収入」と考えるのではなく、「家庭電力を将来的に自家発電のみで賄う」という考えで、太陽光パネルは搭載する価値があると思っています。
少し上述しましたが、私は1kWhあたりの電気料金が今後も上昇すると予想しています。
購入単価が現在の27円から30円、35円と値上がりしていき、深夜電力の割引も少なくなり、電気を買うしかない人はどんどん家計が圧迫されていくという将来です。
・自家発電している人が増えて電力会社は電気を買わなくてはならなくなったので、会社の利益を確保するために電気料金を上げるのは致し方ない
・原発が使えなくなったのでベースロード(24時間発電しっ放しの電力源)が減る=深夜電力を安く売る必要がなくなる(発電量そのものを減らせばよい)=深夜電力料金が上がる
・そもそも原発は維持費が高く、発電しなくてもお金がかかる=電力会社の収益が悪化する=電気料金に上乗せする
このような理由から電気料金は上がり続けると思っています。
そのような未来になった場合でも、5~6kWの太陽光パネルに加えて蓄電池を導入することにより太陽光発電のみで全ての時間帯の消費電力が賄えるようになったら、電気代はゼロになります。
年間消費電力量を賄えるだけの太陽光パネルを載せることは、将来的な電気料金の変動に対する保険になる
という考え方です。
当然逆の現象も起こり得ます。
・研究開発により今まで原発より高いといわれていた火力等の発電コストが下がっている
・電力自由化により電気料金が競争にかけられるようになって安くなる
といった理由ですね。
しかし私は電力自由化しても送電分野は電力会社が独占していることに変わりないので、電力会社の利益確保の為に送電価格を上げ、結局のところ電気料金の値下げはあまり考えられないと思っています。
私は電力関係の仕事をしているわけではないので、実際のところは全くわかりませんが。
全量売電のデメリット
10kW以上を搭載して全量売電にすると、このような未来になった場合は10kW未満の人よりも損する可能性が出てきます(設置費用は回収できるので赤字にはならないでしょう)。
例えば日中電力の購入単価が1kWhあたり48円になった場合、それを24円で売るよりも必要な分は自分で使ったほうが断然お得です。
既に購入単価(27円)が売電価格(24円)よりも高いですから、我が家のように専業主婦で日中も電力を使う家庭の場合は10kW以上の全量売電では損したようなイメージが拭えず、日中の電力消費を躊躇いそうです。
こうやって日常でお金を意識することは幸せから遠のく行為だと感じています。
10kW以上搭載していても、全量売電か余剰売電かを選択できるようですが、余剰売電を選択した場合は当然買取額保証期間は10年になります。売電メリットがなくなったときに必要以上の発電設備を有しているのは、維持費や撤去費用を考えるとあまり得策でないと思います(誰も買ってくれなくなった場合、余った電気は捨ててしまうのですから)。
また、以前にも出てきたZEHという国策において、「太陽光発電は余剰売電しか認めないよ」とありますので、10kW以上搭載して全量売電とした場合、ZEHの補助金125万円が受け取れなくなります。
まとめ
以上が私の考えです。5~6kWの太陽光パネルを搭載すべきという結論に至りました。
10年後には物凄く電気料金が上がっていて、一般家庭では自家発電により電力を賄うのが普通で、電力会社からは電気を買うのは企業のみという時代になっているかもしれませんし。もし全く異なる未来になったら笑ってくださればと思います。
さて、次回は今回の記事と関連が深い「HEMS(電力を見える化して管理するシステム)」について書きたいと思います。